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大学生の好奇心を開放する「やさしい卒論発表会」【イベントレポート・後編】

2019.10.02

著者情報

阿部太一(ちいたべあ)

阿部太一(ちいたべあ)

福岡大学商学部第二部4年生。しょぼい研究者。愛媛県出身。大学生活を人狼・謎解き・早押しクイズに捧げてきました。

こんにちは。
福岡大学4年生の阿部太一(ちいたべあ)です。

先日、福岡大学を会場に開催いたしましたイベント「やさしい卒論発表会」のレポート記事を書かせていただけることになりました!
この記事では前編に引き続き、発表後半の様子と開催の経緯などお伝えしていきます。

地域の問題に歴史的アプローチで挑む!

タイトル:「地域コミュニティがよそ者を受け入れないのはなぜか-鹿屋の事例研究-」
発表者:荒木里香さん(福岡大学商学部第二部・2019年卒業生)

幼少期を長崎県で過ごし、就学前に鹿児島県鹿屋市に引っ越したという経験を持つ荒木さん。引っ越した先の鹿屋には閉鎖的な雰囲気があるのではないか、と悩んでいました。そこで卒業論文では、鹿屋市周辺の地域コミュニティを閉鎖的であると仮定したうえで、その特徴や経緯を調査しました。

なんと地域性を考察するため、過去1000年に及ぶ鹿屋市の歴史を調査したこと!

その結果、
・もともと大隅(鹿屋周辺)を勢力圏としていた肝付氏が、中央からやってきた島津氏によって討伐され、大隅一帯が薩摩の監視化におかれた。
・第二次世界大戦中には旧帝国海軍の特攻隊基地があったが、戦後はアメリカ軍の進駐がなされた。
といった歴史が発見されました。
こういった「地域外からの侵入者による支配」の歴史が、現在も続いている閉鎖性に影響を与えているのではないか、という言説が存在するとのことです。

地域の抱える問題について、歴史的なアプローチを用いるという着眼点が非常に面白く感じました。何より、1000年分という膨大な調査!

会場からは、
「歴史的側面からの考察が素晴らしい。」
「Iターンなどが進む一方、田舎で疎外感を感じる人もいる問題があるので、意義のある研究ですね。」
といったコメントがありました。

荒木さんは発表後、改めて卒論内容と、会場からのフィードバックを検討したそう。
・「閉鎖的なコミュニティ」の定義づけ
・他の地方都市との比較
・人口の増減、流入の調査
など、多くの展開が見つかったと報告してくださいました!

この発表会を契機として、研究をさらに深めようと思ったとのことで、大変うれしいです!

予想が外れたときが、研究の楽しさです

タイトル:「粒子が様々な細胞への付着・膜破壊に及ぼす影響」
発表者:増田優太さん(福岡大学工学部・2019年卒業生)

現在大学院生の増田さんが、学部の卒論から発展して、現在の大学院での研究の内容を発表をしてくれました。

白血球や赤血球といった細胞にシリカ粒子とよばれる小さな粒を混ぜたときの反応について研究している増田さん。
粒子にタンパク質を付着させる、温度を変えるなどと条件を変えて何度も実験し、どんな場合に細胞に多くの粒子が付着するのか、どんな場合に細胞膜の破壊が起こるのかを調べています。

特殊な実験器具を用いて細胞一つ一つにくっついた粒子の個数を数えたり、光学顕微鏡で粒子が細胞膜に食い込んでいる様子を観察したりと、地道な研究の積み重ねをする毎日とのこと。
そんな研究の中で最も楽しさを感じるのは、「予想とは違う実験結果が出たとき」だそうです。「どうしてこうなるんだろう?」と考え、その理由を検証していくことは、まさに知的好奇心の開放です。

また、研究室の先輩が積み重ねてきた内容を受け継ぎ、深めていくことに大きな達成感を感じているとも話してくれました。
もちろん成果を出していかなければならないプレッシャーもあるはずですが、特定のテーマや領域を引き継いて徐々に明らかにしていくのは、理系ならではの研究活動でやりがいや所属意識を持てそうです。

研究内容があまり普段の生活に身近ではなく、専門用語も出てくる発表でしたが、たとえ話も用いて分かりやすく伝えてくれました。
ちなみにこの研究は、ドラッグデリバリー(特定の薬の成分を、消化器官の特定の場所に届けるようにする仕組み)などに応用できるそうで、ぜひ今後も研究を進めていってほしいです!

16年間続けたスポーツを研究対象に。

タイトル:「空手道競技の団体戦で結果を残すためにはー全九州学生空手道連盟主催の大会結果から見る一考察ー」
発表者:渕上恵士朗さん(福岡大学商学部・2019年卒業生)

卒論のテーマとして、小学生から16年間続けてきた空手を選んだ渕上さん。
空手の団体戦は、集団戦のサッカーや野球などとは違い、個人戦の繰り返しで成立していることに注目しました。
どんなチームが、団体戦で勝てるのかを明らかにする研究をはじめます。

特に学生の部活動はメンバーが数年で入れ替わるため、常に勝ち続けている学校のチームの共通点を見つけたかったとのこと。
直接的に空手をテーマとしている先行研究は見当たらなかったため、スポーツにおけるチームマネジメント、大学の部活動、剣道の団体戦をテーマとした研究を材料としました。

その結果、
・チームとして良い実績を残した経験がある
・最低一人は実績のある選手がいる
・チーム内の雰囲気が良い
という3つの要素があるのではないか、と仮説を立てることができました。
そしてこれを、実際の九州地区の大学空手道大会の成績で検証したのが卒業論文です。

個人戦の成績を定量化して学校ごとに合計し、それを団体戦の成績と比較するという手法を用いていました。
結果としては、ほとんどの場合、ある学校の個人戦の成績と団体戦の成績は関連していたものの、個人戦で最も高い成績の指標を出した学校が団体戦では負けている事例が見られたとのこと。
その場合でも優勝した学校には、1人は個人戦で優勝した選手がいたり、その負けた学校はチーム内で問題が生じていることが新聞報道されていたりと、上記の3つの仮説は正しいのではないかと結論づけました。

会場のコメントでは
・研究の範囲が上手に設定されている
・個人戦の実績をポイントに置き換えて定量化する視点が良い
・心理学の指標を用いるとさらに説得力が増すのでは?
など建設的な議論が展開されていました。

幼い頃から親しんできたスポーツを、大学生として商学部のマネジメントの知識も活用し、研究の対象として捉えた渕上さんを見習って、僕たち現役の学部生も自分の興味関心を研究的に調査していきたいと思いました!

「やさしい卒論発表会」ができるまで

5人の登壇者がそれぞれの卒業論文を発表してくださり、知的好奇心が大いに刺激された今回の「やさしい卒論発表会」。大変盛り上がり、企画者として感動しています。

今回の企画をするにあたって僕は「卒業研究をもっと重要かつ身近な存在にしたい」という気持ちを抱いていました。
大学3年生の秋、前編でご紹介した森田先生のヒマラボで研究員として研究をしていた僕は、関連する先行研究を探していました。ちょうどいいタイトル論文を他の大学の研究室のホームページから見つけ、その論文を閲覧させてほしいと研究室の先生にお願いしたのですが、その論文が学部の卒業論文だったためお断りされしまいました。

大学生にとって卒業論文は4年次の1年間を使って、大学での学びの集大成として仕上げる、立派な成果です。
学部の卒業論文であっても、世の中に生まれた新しい知識であることには変わりがないのに、多くの卒論がクローズドな学部の発表会で一度発表されただけで、研究室の戸棚に眠ってしまう、そんな状況がひどく残念に思われました。

さらに、卒業論文を書くことは自分の興味関心のあることを納得の行くまで調べあげ、学問的思考を育てる絶好のチャンスであるはずなのに、「卒論をいかに手を抜いて仕上げるか」といった考え方がネットや自分の周囲にあふれていることにも、危機感を覚えました。

そこで、
・興味のある何かを全力で調べることは楽しいことだ
・小さくとも世の中に新しい知識が生まれたことは素晴らしい
・他の学部がどんな研究をしているのか気になる
といった気持ちを共有できるような機会があればよいと思い、「やさしい卒論発表会」を企画しました。

学部の卒論発表会では、学術的な観点から厳しく議論が交わされ、採点がなされると思いますが、このイベントでは「好奇心を刺激されること」「新しい知識が誕生したことを愛でること」を大事にしていきたいと考え”やさしい”というタイトルにしました。

企画するにあたっては、森田先生の一般社団法人ヒマラボにおける研究員制度や、『ビジネスモデル図解2.0』の著者であるチャーリーさんがnoteでまとめておられた”卒論公開チャレンジ”の様子などを参考にさせていただきました。

イベントを終えて・今後の展開について

今回、文系・理系を問わず5人の登壇者の方が知的好奇心を刺激する発表をしてくださり、10名あまりの興味をもった方が参加してくださったことで、「卒業論文を発表したり聞いたりすることには価値がある」と改めて実感することができ、大変うれしく思います。
本当にありがとうございました。

また、コメンターとして質疑応答をまとめてくださった森田先生にも大変感謝しております。

今回は、すでに卒業論文を書いた院生・社会人の方々に発表をしていただきました。
来年の2月には第2回として、今年度大学を卒業する20卒を中心に発表者を募っていきたいと考えています。

発表者にとっても、自分の卒論に学部以外から意見をもらえ、さらに研究や考察を深める機会となるので、研究的活動に興味がある方・何か調査したいことがある方にはぜひ発表をしてもらいたいです。

もちろん僕も4年生ですので、自分の研究発表をします。
2月は、今回に引けを取らない盛り上がりになるよう頑張って参ります!

この記事を読んで、興味を持ってくださった方のご参加もお待ちしております。

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