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大学生の好奇心を開放する「やさしい卒論発表会」【イベントレポート・前編】

2019.10.01

著者情報

阿部太一(ちいたべあ)

阿部太一(ちいたべあ)

福岡大学商学部第二部4年生。しょぼい研究者。愛媛県出身。大学生活を人狼・謎解き・早押しクイズに捧げてきました。

こんにちは。
福岡大学4年生の阿部太一(ちいたべあ)です。

先日、福岡大学を会場に開催いたしましたイベント「やさしい卒論発表会」のレポート記事を書かせていただけることになりました!
社会人・院生のみなさんが学部時代の卒論を発表するという、このイベント。学部生を中心に16名の参加者が集まり、様々な学問領域の個性的な卒業論文に耳を傾け、やさしい議論が展開されました!

「やさしい」とあるのは、研究の学問的重要性・新規性よりも、発表を聞いて「へえ〜」と知的好奇心を抱けるかどうかを大切にしたいという理由からです。

記事の前編では、セッション前半の発表と会場の様子をお伝えします。
後編では、後半のセッションと、イベント開催の経緯について記します。

大人も好奇心を発揮できる社会を

各卒論の発表に先がけて、今回コメンテーターを務める福岡大学商学部准教授の森田泰暢先生より、ご自身が代表理事を務めておられる一般社団法人ヒマラボの活動についてお話をしていただきました。

ヒマラボは、社会人と学生が混ざってヒマな時間に研究的な活動をしよう、と昨年度にはじまったコミュニティが発展してできた団体。
森田先生はお子さんが生まれたことをきっかけに「次の世代に残すべき豊かな社会とはどんなものか?」と考えはじめ、豊かな社会とは「好奇心を毀損されない社会」だと定義しました。

子どものころには誰もが持っていた好奇心、新しいことを知るワクワク感は、大人になるにつれて忘れてしまいがちです。そんな知的好奇心を発揮して、何かを学ぶ・研究することに喜びを見出していくのがヒマラボの活動とのことです。

具体的には月に一度ほど集まり、研究員の発表を聞いたり、研究的活動をするうえで役に立つワーク(学術論文の読み方)を開いたりしています。

実際に私も昨年度の研究員として体験型謎解きゲームを研究・制作したのですが、まだ整理されていない何らかの知見を体系的にまとめたり、自分の研究・考えについて発表し社会人の皆さんからフィードバックをいただけたりと、大変有意義な時間を過ごしました。

法人化した今年度も、社会人・学生を問わず研究員を募集しています。

たとえどんなに小さい発見であろうと、研究で生まれた新しい知識(このような知識をヒマラボでは”Yocto-Knowledge”と呼ぶそう)をみんなで喜べる、ヒマラボはそんな場所です。

5人の皆さんに卒論発表をしていただきました

ミツバチのダンスに隠された暗号とは?

タイトル:「福岡大学周辺のミツバチ採餌分布の多角的比較」
発表者:田中聡至さん(福岡大学理学部・2019年卒業生)

みなさんは、ミツバチが巣の中でダンスを踊っていることを知っていますか?
さらに、ハチたちはそのダンスでのお尻の振り方や角度によって仲間たちとエサのありかを教えあっているというから、驚きです。
登壇した田中さんは現在も大学院生として、そんなミツバチ(セイヨウミツバチ)のダンスを解析して植物の植生や、気候の変動を探る研究をしています。

セイヨウミツバチのダンスの研究の歴史はかなり深く、もっとも有名な研究者としてはカール・フォン・フリッシュ(1886-1982)がいます。
彼はミツバチの複雑なダンスに注目し、太陽に対してのお尻を振る角度や、ダンスの長さによって、花の蜜までの方角と距離が表現されていることを突き止めます。この業績によりフォン・フリッシュは1973年のノーベル生理学・医学賞を受賞します。

フォン・フリッシュの研究が元となってセイヨウミツバチのダンスについての研究は発展し、現在では巣箱をカメラで撮影して、画像認識によりダンスを記録することができます。
田中さんの研究室ではその記録から読み取った花の場所を実際の福岡大学周辺の地図上にポインティングし、季節や年度ごとに比較をしています。

季節によって花の植生が変わるということ、その年の気候によって花の咲く場所に違いが出ているということがミツバチのダンスの観察から分かるということに、会場のみなさんも思わず「へえ〜」とうなづいていました!
今後さらにデータが蓄積していくにつれて、福岡大学周辺での「平年」の植生が分かるようになるとのことです。

また、セイヨウミツバチがどうやって仲間のダンスを認識しているのかについては分かっていないことが多いとのこと。田中さんは、脳科学の視点からこれを解明していきたいと語ってくれました。

身近なミツバチにこんな秘密があることを知れ、そこから広がる気候変動や脳科学といった壮大なストーリーも大変興味深かったです。

文系と理系の中間から、言語の法則性に切り込む

タイトル:「接触言語の文法獲得メカニズム ~分析的形態法と語彙の文法化~」
発表者:九里俊輔さん(山口大学人文学部・2018年卒業生)

次の発表は、山口大学出身の九里(くのり)さん。
九里さんは、一般的な言語学ではなく「理論言語学」というユニークな立場から、「接触言語(ピジン・クレオール言語)」の研究をされていました。

理論言語学とは、特定の言語ではなくあらゆる言語を対象に、分類学・統計学など文理を超えたあらゆる学問的アプローチを用いて研究をしようという学問のこと。
使えるロジックは何でも使って、すべての言語にまたがる共通規則や形式を探していきたいとのことです。
そして接触言語とは、貿易や植民地支配において、主に民間の商取引の場面で自然発生的にできあがった、複数の言語が合成された言語のことです。たとえば、幕末〜明治にかけて横浜の商人と海外の商人との間で発展した「横浜ピジン語」などがあります。

接触言語はその成立の背景や単語の不自然さから、”未発達の言語”とか”単純で低級な言語”などと言われることもあるそうです。
しかし九里さんはこの接触言語にも何かしらの法則性があるはずだと考え、横浜ピジン(英語と日本語)、中国ピジン(英語と中国語)、ハワイピジン(英語とハワイ語)のそれぞれについて、時間的な概念を文法的にどう表現しているか分析しました。
手法としては、当時の宣教師や役人の手記など、それぞれの接触言語の資料を大量に入手し、それをコンピュータを用いて解析したり、単語の機能について資料の文脈にあたって検討したりと、かなり地道な作業の連続だったとのこと。

分析の結果として、「英語との接触言語は、元となっている言語の時間表現で発達している部分を単純化して引き継いでいる」ということが分かったと発表してくださいました。

会場からは、
・研究のために一次資料を集めることも、機械分析することも時間がかかっていてすごい
・内容がすべて理解できたわけではないが、興味がわいてきて笑顔になった
・人工言語や方言にも、パターンってあるのかな?
などの感想や質問がありました。
みんなマニアックな世界に興味津々でした。

情報系らしい独特かつ明快な発表で、とても楽しませてもらいました!

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