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言語マニア二人で多言語同時通訳しりとりをする

2021.08.31

著者情報

 竹下りや

竹下りや

高専で生物化学を学んだのち進学した大学院で言語情報学を研究している、20近くの外国語を学んだ(≠覚えた)語学オタク。好きな文房具は付箋。

こんにちは。竹下りやです。

言わずと知れた言葉遊び、しりとり。

多くの人が子供の頃から親しみ、また歳を重ねてもなおルールを加えてより難易度の高いものに挑んでみるなどの楽しみ方で老若男女に愛されています。

私も「アマチュア言語オタク」を名乗るほど言葉そのものが好きなもので、言葉遊びのしりとりも大好きです。

そういえば、かつて、ある派生しりとりを目にしたことがあるのでした。

その名も「同時通訳しりとり」。
日本語でしりとりをしながら、その単語を英訳したものでもしりとりを並行する遊びです。

そういえば、ロクヨリには私以外にもうひとり、言語のツワモノがいたのでした。
ロクヨリ編集長、クノリ。
学生時代を英語圏で過ごし、大学で言語学を学んだ経験を持ちます。
そこで私は思いました。

クノリさんと私でこれやるなら英語に限定しなくてよくない……?

なにせ帰国子女で言語学を修めたマンとアマチュア言語オタク。きっと激アツな展開がそこにはあるはずです。

クノリさんに同時通訳しりとりを紹介したらいい感じの反応だったので、実際にやってみることにしました。

メンバー紹介

竹下:言語オタク高専卒クイズ大学院生。最近の悩みはフォトジェニックなチーズ牛丼のノリで買ったタバスコが一人暮らしだとどう頑張っても使い切れないこと。

クノリ:ロクヨリ編集長。学生時代を英語圏で過ごし、大学で言語学を修めたという、言語学の知識のみならず経験も兼ね備えた方。
(※編集後記 褒めちぎられて全身がかゆい。家庭の都合に振り回されただけです)

井上:言語学の知識がそこまであるわけじゃない見学者枠。一般的な見識からコメントをもらいたい。

しりとり (shiritori) から始めてゆきます。

クノリのターン:利口(りこう) intelligent【英語】

竹下:インテリジャンか~、と思ったらインテリジャンじゃない、インテリジェントだ、フランス語読みしてしまった

竹下のターン:迂回(うかい) turn【英語】

竹下:ここで早速15分くらい使ってる。分かってはいたが難しいですねこれ。開始早々このゲームの難しさを知った。

クノリのターン:いるか nai’a【ハワイ語】

クノリ:そう、ここでnで始まるから、ハワイ語の語彙でなにかあると思って、ハワイ語のローラーを始めたんだけど、ナア、ナイ、ナイッアってハワイ語からのローラーで当てたんだった。

竹下:へー。って、「いるか」って語彙知ってるの運用能力高くないですか?

クノリ:ハワイ語って話者数が多くはないから、まとまった母語話者の資料集めようとすると民話とかになりがちなんだよね。あの辺のお話、海洋生物でてきがち。

竹下のターン:神(かみ) (الله, Allāh)【アラビア語】

竹下:このal-は冠詞だから厳密には二単語だけど、これに関しては慣用的に用いられるから大目に見てほしいです。まあアラビア語のしりとりのルールよくわからないですけど。

竹下:ぼくが知ってる数少ないアラビア語の単語です。知ってるアラビア語の単語50個くらいしかないので、使えるときに使っておいた。

クノリのターン:みすぼらしい humble【英語】

竹下:この辺から形容詞が出てきても気にしなくなってくる。

クノリ:ホントは形容詞が出てくるのよくないんだろうけどね。

竹下:まあ形容詞に分類されるかなんて言語によって変わるし、形容詞がやたら「い」で終わる、みたいな制約がついても、同時通訳という制約が強すぎてもうどうでもいいので。

井上:それこそしりとり全般のルールとして思うのは、日本語でしりとりをするときに用言と呼ばれるものを使ったときに、例えば英語圏で動詞や形容詞を使ったときの違和感と比べて完全じゃない感がすごい。

井上:具体的には同じ「用言」と言われるものでも「do」はしりとりで出されても納得するけど「すごい」だったら違和感がある。だから言語が違えばそのへんの抵抗も変わりそうですね。

クノリ:日本語だと活用語尾が付いていろいろ語尾変わるからね。

竹下:語の最小単位感がないのだろう。

竹下のターン:言い訳(いいわけ) Entschuldigung【ドイツ語】

竹下:これは思いついたときに快感でしたね。

クノリ:ドイツ語全然やったことないけどこの語彙めっちゃドイツ語っぽいね。こういう、〇〇語をやったことがない人が、「この語彙は〇〇語っぽい」と思う基準って何なのだろう。

竹下:やっぱ文字じゃないですかね、ドイツ語だとやたらGが多いとか。

井上:僕はドイツ語とかイタリア語とか触ったことないんですけど、ドイツ語は「ヴ」の音が多いとかそういったイメージが言語にあって、文字で見たときも、この文字はそういう発音の仕方をするのかなとか推測して、ドイツ語とイタリア語の二択だったら当たるみたいなところがありますね。

クノリのターン:系統(けいとう) genealogy【英語】

クノリ:これなかなか思いつかなかったんだよな~~~

竹下:「け」で始まる日本語がそもそもあまりないですもんね。

クノリ:だからこれもローラーして。「けあ」、「けい」……ってやっていった。傾向としてローラーで早く出てくるものがたくさん答えてそう。

竹下のターン:運動(うんどう) 运动(Yùndòng)【中国語(北京語)】

竹下:Yで始まりがちな中国語で探したのですが、「云」の字が音を表す部分として機能することが多くて、これがyunと読まれがちなので、一文字目に「云」がつくものを探しました。

クノリ:中国語って半母音(日本語でいう「や行、わ行」の音)が多いイメージだから、yとかwとかにうまく対応できそうな気がする。

竹下:確かに、yもwも多いですね。

竹下:あと、ピンイン表記(中国語の発音をアルファベットで示したもの)ではxで始まる単語も多いので、xも中国語に頼ることになりそう。

クノリ:xって何の音?

竹下:谢谢とか习近平とかの「シ」です。習近平って身長180cmあるんだ大きい。

クノリのターン:上手い(うまい) good【英語】

クノリ:ここにきて唐突に超基礎語彙。

竹下のターン:家(いえ) domus【ラテン語】

竹下:この辺は基礎語彙が続きますね。ラテン語の基礎語彙だけど。

クノリ:ヨーロッパの言語は苦手だから何もわからない。

竹下:同じ「家」でもロシア語のдом(dom)と迷ったけど、domusのほうがやりやすいかなと

クノリのターン:衛星(えいせい) satellite【英語】

クノリ:やっと出てきた。

竹下:これも「えい」で始まるやつですね。ローラーで出やすい。

竹下のターン:一(いち) Eins【ドイツ語】

竹下:ドイツ語の冠詞の一つeinとも関係していて、ドイツ語学習者的には基礎語彙。

クノリのターン:力(ちから) sohki【クリー語】

竹下:これがクリー語ってやつか。

クノリ:「力強い」とか、「重要な」とかのニュアンスを含めるときにこれを派生させて語をつくるから、クリー語的には基礎語彙。
(※編集後記 正確には基礎語彙というか語根というか……形態論ご存知な方は頷いていただけるはず)

竹下:そうか、クリー語って抱合語、単語の派生がすごい言語でしたね。抱合語の世界は奥が深い。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%B1%E5%90%88%E8%AA%9E

竹下のターン:濫觴(らんしょう) initiation【英語】

竹下:これ、日本語の語彙力でも殴れますね。

クノリ:これは完全に日本語の語彙でやられた。

竹下:漢字検定にハマっていた頃の経験が活きた。

竹下:漢検一級語彙でも便利だから使いたくなる語彙ってあって、でも無論知らない人が多いから、言ったらキョトンとされるものって結構あるんですよ。

クノリ:俺もググんないと分からなかった。

竹下:「物事の始まりのこと」です。

クノリのターン:打ち消す(うちけす) negate【英語】

クノリ:これはめちゃくちゃ早く出た。というのも、俺が好きなカードゲームにnegateってのが出てきて。効果がそのまま打ち消しだから。

https://mtg-jp.com/products/card-gallery/0000164/447135/

竹下のターン:皇(すめらぎ) emperor【英語】

クノリ:完全に日本語語彙で殴る方にシフトされた。

竹下:これはemperorが先に出てきて、それをなんとか言い換えようとしたら「すめらぎ」になった。ぼく自身も不安だったから「すめらぎ」をググって意味を確認した。

クノリのターン:儀式(ぎしき)ritual【英語】

クノリ:ここからカードゲームでよく使う語彙シリーズになる。「儀式 ritual」もよく出てくるから。

https://www.hareruyamtg.com/ja/products/detail/33321

竹下のターン:虚構(きょこう) lie【英語】

竹下:「極限(きょくげん) limit」を言って普通に終わるところだった。

クノリのターン:羨み(うらやみ)envy【英語】

クノリ:これもカードゲーム語彙。

https://yugioh.fandom.com/wiki/Amorphage_Envy

竹下のターン:みんな 여러분(yolobun)【韓国語】

竹下:韓国語出てないから使ってあげたかった。ハングルとアルファベット音写の規則をよく知らなかったからこれもググって確認した。

クノリ:あ、三和田くんだ。(通話に参加)

三和田:神々の遊びをされてますね……あ、竹下さんはじめまして。

竹下:Zoomまして。なんかちょうどみんなって語彙を使ったらみんな集まってきた。

クノリ:長さもオチとしてもちょうどいいしこのへんにしておきますか!

……という形でふんわりと終了した第一回同時翻訳しりとり。

読者の方がついて来られるかはさておき、言語マンの二人はノリノリだったのできっと第二回も開催されるでしょう。ご期待ください。

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