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漢検一級にも出ないゲキムズ四字熟語の話
2023.03.26
こんにちは。田中句読点です。
漢字検定。
数ある検定試験の中でも「ちょっと受けてみようかな」となるハードルが極めて低い検定試験の一つです。
母校の中学校でも学内に漢字検定受けてみませんかニュアンスのポスターが校内に張られていました。中学生だと大体三級か、漢字好きな人は準二級受ける感じでしたね。漢字だけに。
そう、漢字検定は実に幅広い級があります。
小学一年生レベルの十級から、漢字マニアレベルの一級まで。
私が先日漢字検定一級を受けに行った日も、さまざまな級の試験が行われる試験会場には小学生からおじいさんおばあさんまで老若男女揃い踏みといった状態でした。
ちょっと一級の問題を紹介してみますと
問.次の文のカタカナを漢字に直しなさい
サッと身を隠す。(答え:颯)
ツッケンドンな態度。(答え:突慳貪)
チャキチャキの江戸っ子。(答え:嫡嫡)
いや、そんなん漢字で書く人おるの???というものから
問.次の文のカタカナを漢字に直しなさい
国民をマンチャクする。(答え:瞞着)
キョウゲキな思想は危険をはらむ。(答え:矯激)
と、漢検一級でしか聞かないような(私の学が浅いだけでないことを祈ります)語彙を問うものもあります。
ここまで難しい漢字・語彙を知っているのであれば、国語辞典のあらゆるページに載っている言葉をすべて知っているのでは。とすら思ってしまいます。
しかし、漢字の世界は実に豊かで、漢字検定一級にすら出ないゲキムズ漢字・ゲキムズ語彙もあるのです。
今回はその中でも、私が最近買った四字熟語の辞書に載っていた、漢字検定1級にも出ない四字熟語をいくつか紹介し、その不思議な魅力に迫りたいと思います。
漢検一級の基準
そもそも漢検一級に出る漢字はどのような基準によって策定され、何を満たせば漢検一級にすら出ない漢字、となるのでしょうか。
そのためにはJIS規格についてのちょっとした知識が必要になります。
JIS規格では、パソコンやスマホで扱う文字についてグループ分けがなされており、英数字・片仮名・符号など非漢字1183種と、漢字第1水準2965字、第2水準3390字、第3水準1259字、第4水準2436字が定められています。
この内第1水準を対象とするのが準一級、それに加えて第2水準も対象とするのが一級です。
常用漢字は全部で2136字あるので、それに加えて800くらいの漢字を対象としたものが準一級で、一級は常用漢字に加えて4000近くの漢字が対象となるということで、準一級と一級の隔たりの大きさを感じさせます。
ところで、第3水準と第4水準については漢字検定の出題の対象になっていません。
そう、これこそが、「漢検一級にも出ないゲキムズ漢字」なのです……!
興味をそそられませんか?
では、そのゲキムズ漢字を使った四字熟語を紹介します。
采椽不斲 さいてんふたく
意味は「質素な建物のこと」。采椽が山から切り出したままの椽(たるき)のことで、斲は「削る」という意味があり、山から切り出したまま、加工をせずに椽としている様子から、質素な建物のことを表すようになりました。
「斲」が漢検配当外です。この漢字、偏(へん)が見慣れなさすぎて怖いくらいあります。なんなんでしょう。じっと見つめられているような気がします。やっぱりこわい。
前跋後疐 ぜんばつこうち
意味は「進むことも引くこともできず、どうにもならない困難な状態に追い込まれること」。老いた狼の顎にたれさがった肉を跋み、後ろには自分の尻尾に疐(つま)づく、ということから。
「疐」が漢検配当外です。ブラウザによっては潰れてよくわからんと思いますので、拡大してご覧ください。実はこの疐という字、漢検一級チャレンジャーにとっては心当たりのある字なのです。
「嚔」という漢字があります。「くしゃみ」と読むのですが、これの旁(つくり)の部分こそが漢検配当外の「疐」なのです。
禍福糾纆 かふくきゅうぼく
意味は「不運と幸運は、より合わせた縄のように互い違いに訪れるということ」。
「纆」が漢検配当外です。「禍福は糾(あざな)える縄の如し」という言葉がありますが、原典に忠実に書くと「縄」には「纆」という漢字を当てるようです。
自分的に禍と福、糾と纆で部首が一致しているのが芸術点高いと思うのです。
よく知られた言葉でも掘り下げてみると漢検配当外の漢字に行き当たることもあるのですね。
刖趾適屨 げっしてきく
意味は「本末を転倒して無理に物事を行うこと。」刖は切る。趾は足の意。足を切って靴の大きさに合わせるという意味から。
「刖」と「屨」が漢検配当外です。月にりっとう、という至極単純な構造の漢字なのに、一緒の文字に組み込まれた途端に、違和感や親和性の低さを感じます。なんだか素敵ですね。
埳井之鼃 かんせいのあ
意味は「世の中のことを知らず、自分だけの狭い見識や考え方にとらわれていることのたとえ」。
埳井は古い井戸のこと。鼃はカエルのこと。要するに「井の中の蛙大海を知らず」というやつです。
埳と鼃が配当外です。四文字中二文字が配当外となると、流石にレジェンド感のある四字熟語に見えてきますね。横断歩道の向かいにこの四字熟語がいたら渡るのをためらうレベルです。
埳は対応しているフォントが限られていそうだし、鼃は横線が多すぎて潰れてなんなのかよくわかりません。いまにも文字化けしそうな活力すら感じます。
というわけで、数ある四字熟語のなかでもゲキムズ漢字を使ったゲキムズ四字熟語をご紹介してみました。漢検一級保持者もうなるゲキムズ四字熟語。ぜひ皆さんも使ったり書いたりできるようになってみてください。実用性は皆無ですが。
参考
漢検四字熟語辞典 公益財団法人日本漢字能力検定協会 編 大日本印刷株式会社 出版