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オンラインスクールを立ち上げた元高専教員にインタビューしてみた

2020.10.06

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竹下りや

竹下りや

高専で生物化学を学んだのち進学した大学院で言語情報学を研究している、20近くの外国語を学んだ(≠覚えた)語学オタク。好きな文房具は付箋。

 私も卒業した高専、それは15歳から理工学の各分野の専門教育を受け、理系特化型の人材を養成する教育機関。

 理工学の分野については高校生相当の年齢で大学の工学部で学ぶような高度な内容を学ぶ上、人文系の授業も開講されるため、興味次第で広い範囲の見識を修めることができます。

 なかでも私の印象に残っているのは、日本史の授業を担当なさった古川順大先生の授業です。

 最先端の時事や学生に人気のサブカルにも先生は詳しく、非常に親しみの持てる授業が行われていたのを鮮明に覚えています。「空海は女子力高い」という話が好きでした。

 今回は高専での教務を退いた後、現在はオンラインスクール「Onestep」を立ち上げ活動されている古川先生とのインタビューをお届けします。

波乱の学生時代

ではまず、先生の自己紹介をお願いします

 二十歳くらいのときは働いていた。本は好きだったからよく読んでいて、それで日本史を勉強したいと思って、九大の文学部に入ったんだよね。それが現役の人と8歳差くらいの年だね。

 そのまま大学院の修士、博士過程まで行ったんだけど、博士課程のときに妻、当時の彼女さんに大きな病気が見つかって、結婚することにしたんだ。

 そうなると仕事もしないといけないんだけど、そのときに丁度、高専の日本史の先生の求人を見つけて、基本、教員免許を持っている人を優先的に採用しているらしかったんだけど、高専は短大扱いだから教員免許は必須じゃないだろって説得したんだよね。

 それから高専の先生やりながら、九州国立博物館でも働いてた。

 博物館の任期満了が近づいてきたタイミングで、河合塾でも教え始めて、2年ぐらい経ったところで教え先を予備校に一本化したんだ。それでOnestep立ち上げたんだわ。「それで」って言っても飛ぶな。

娘の不登校-フリースクールとしてのOneStepの立ち上げ-

 娘が小学一年生の二学期から不登校になったんだ。それが去年。それから家でいろいろ教えたり、いろんなフリースクールを回ったんだわ。

 そこでフリースクールを見て、満足しなかったんだよ。福岡市だけでもいろんなフリースクールがある。

 小学校や教育委員会相手の交渉力が強いところとか、ご両親の相談にものすごく時間を使ってくれるところとか、ビジネス畑の人が戦略的に経営しているところとか、地域に密着しているところとか。だけど、ハイレベルの学習をしているところがあるとは言いにくかった。

 うちの娘、このまえ発達検査でIQ測ったら150くらいあって、フリースクールでも浮いていて、先生からもほっておかれて、ポツンと寂しそうにしていたの。
 日本の公立の小中学校はみんな同じ教室で同じ内容をやる。そうなると、内容についていけない子も出てくるけど、逆に学習が進んでいて、2,3学年くらい知的水準も高い子が困ることも出てくる。

 そういった子は周りと話が噛み合わなかったりして、居心地が悪そうにしているんだけど、誰もケアしてくれない。 例えばさ、小学校って足が速い子めっちゃ褒められるじゃん。すげー! かっこいいー! って。でも勉強できる子が称賛されたり尊敬されたりすることってなくない?

むしろ、そしられるまでありますね。

 だろ? 小学校って勉強している子が肩身の狭い思いをする不思議な世界なんだよ。まあアメリカのドラマとか見ててもそうだし、人間の世界ってどこでもそうなんだろうなとは思うけど。

 だからさ、そういった居心地の悪さを感じて、学校から足が遠のいたような子のためのフリースクールを立ち上げようと思ったの。教育委員会とのパイプも強くない。資本力も大きくない。でも、ウチが一番レベルが高い勉強していますよっていうフリースクールを。

 だから、最初に医進専門のハイレベル塾で長年教えてきた先生や、竹下さんと同じで高専の卒業生とか、言語聴覚士(ST)や作業療法士(OT)といった発達療育関係の専門家に声をかけスタートしたんだ。

 だから、教育のレベルも、専門性も高い。子どもたちがなにかやりたい! っていったら、まあそれは日本史でも、e-sportsでも何でもいいんだけど、そういうときに集中して専門的にやれる時間を取れるってことを目指してる。今もそれが柱になってる。

 親って、欠点を治す方向で子どもを育てたがる。偏食とか、スポーツができなかったりとか。小学校とか特に、欠点があると攻撃されるじゃん。だからまあ最低限ね、これくらいできておいてほしいっていう気持ちがあるというのは分かるんだけどね。

 だけど、得意不得意が激しい子って浮いちゃうんだけど、本当はスゴイ必殺技を秘めてるんだよ。ウイルスにめちゃくちゃ詳しいとか。戦国時代なら誰にも負けねえとか。そういう得意なことを持っている子を伸ばして、そこを自信にして、社会人になったときの武器にしようぜって。

 そういう得意不得意の凸凹がある子って、周りに合わせようとしても、どうせいい意味で平凡な枠からははみ出ちゃうんだから。

そういう人高専に来がちですよね。

 そうだよ。あそこもそういう人たちが集まるところだろ? オレの妹も久留米高専卒だよ。

 子どもが周りから浮いちゃったときに、それを自分の欠点のせいだって思って自信をなくしがちなのは悲しいことだと思うし、一番もったいないのは、欠点を直して入っていこうとすることだよね。そんなことより、お前、得意なことあるんだからそこ伸ばしていこうぜってことなんだよな。

スタートアップ時期のパンデミック

 フリースクールとしてOnestepが始まったのが今年の春からなんだけど、ちょうど感染症が流行り始めて、休校や自粛がいつまで続くのか誰にもわからない世界になった。教室の確保にしても、この状況で不動産契約するやついねえだろってことになった。

 Onestepの活動として、フリースクールを核として、それに加えてもっと勉強したい子ども向けに探究ラボや個別指導、そして勉強系のクラブ活動に広げていくという構想が最初にあった。ところが、今年の状況があったのでこの社会レベルの危機をきっかけに、教育のオンライン化を進めていこうと考えた。

 また、このオンライン化に伴って、探求ラボやクラブ活動を先行させて、それからフリースクールに活動を広げていこうという戦略に切り替えた。だから今は「オンラインスクールOneStep」なんだ。

 そして、5月から探求ラボとしてオンライン実験とかオンラインワークショップをやり始め、7月に歴史クラブをスタートさせた。そして、9月にかけてフリースクールとしての活動を本格的に始動させてきた。もちろん、すべてオンラインだ。

 今後も、OneStepはオンラインでの強みを生かしてやっていきたい。

 自粛が終わって、世の中が昔ながらの対面に戻そうぜって雰囲気になっているので、今はオンラインに特化した教育活動は厳しい環境にさらされている。そのせいか、自粛中にいったんはオンライン化などの教育改革を進めようとしていたのに、旧来のやりかたに逆戻りしているところも多い。旧来のやり方に、ただマスクやフェイスシールドをつけるだけで、「新しい生活様式」だと思い始めている。

 だけど、この春に100年に一度の危機に実際に出会って、みんなが「この大過をきっかけに、これからは新しい生活様式を作り上げていかなければならない!」と切実に考えたときの「新しい生活様式」っていうのは、江戸時代から変わらない対面授業の形式にマスクとフェイスシールドを加えるようなものじゃなかったはずだろ。

 それじゃあ、ちょんまげがフェイスシールド付けてるだけじゃん。オンライン化に限らず、新しい教育が人々の求めるものであるなら、長い目で見れば新しい教育の時代は必ずやって来ると思う。歴史がそれを証明している。
教育改革っていうものは、感染症があろうがなかろうが必要だったはずのもので、自粛はきっかけに過ぎなかったはずだ。

全国初のオンライン日本史クラブ

-これからの目標ややりたいことはありますか?

 今やっている歴史クラブを発展させることだね。たとえば、江戸時代とか明治時代とかの日本の歴史学者って、漢文を読む能力が今の学者よりも高くて。
 
 いろいろ親とか周りの人とかが厳しい時代だったってのもあるんだけど、100年前の歴史学者のほうが、幼少の頃から家中に中国の大昔の本がいっぱいあって、それを幼い頃から読んでるだよ。

 だから、今は昔よりも分かってることは多いんだけど、漢文を読む能力は昔の人のほうが高いんだよ。もちろん今の人みたいに英語ができたり数学ができたりするわけじゃないんだけど、学者の強みって一つのことにやたらと強いってことじゃん。

 オレの恩師の先生は日本、っていうかアジアでトップクラスの学者の一人で、教科書とかも書いてる人なんだけど、その人は中学高校で歴史クラブに入ってたんだよ。一昔前は地域密着型の歴史クラブってのが割とあったんだけど、今はそういうの全滅に近い。大学院に入ってくる人でも中高から歴史クラブにいたっていう人はほぼいない。オレもその一人だった。

 たとえば、野球でもサッカーでも、プロで活躍してる人は中高で絶対クラブチームとかで練習してきてるよね。

 でも学問になると、これは歴史じゃなくて理科でもそうだと思うんだけど、大学院に入ったり、学者を目指している人に中高から専門のクラブに入ってましたか? って聞いたときに「もちろんっすよ! 幼少期からクラブでガッツリやってました!」って答える人はほぼいない。

 だから、小学校中学校のうちから歴史をやる、「歴史のクラブチーム」を作りたい。周辺の学校一つや二つではメンバー集まらないにしても、オンラインの関心が高くなっている今なら集まる。実際、いまのクラブのメンバー15人くらいのほとんどは関東の人。やっぱり首都圏の人はオンラインの定着が早いみたい。あと海外からも体験とかにきてる。シンガポールとかオーストリアとかから。でもオーストリアは時差があるから長続きしなそうだな。今の時刻聞いたら「朝の10時」とかいうんだぜ?夏休み終わったら絶対続けられないだろ!?

 今、フリースクール部門でクラブのレベルを超えてより高度な探求をしたいって子がいる。小学2年生の子なんだけど「古文書読めるようになりたい」って言ってて。すごいんだよ、歴史マニアでさ、誰が何年に生まれたとか全部覚えようとしてるんだよ。歴史シミュレーションゲームもやりこんでるんだよ。

歴史シミュレーションゲームはすごいですね……戦国無双シリーズ(コーエーテクモゲームス)みたいなアクションならならわかりますけど

だろ!? 戦国無双みたいなやつなら分かるよな!? そういう子がさ、もっと深いとこやりたい、古文書とかも読めるようになりたいって。そういう子に対して先生を紹介して。あ、日本史はオレがやるんだけど。もし数学とかでも数学に詳しい先生紹介して。

 そういう、一部に秀でてる人に先生を紹介して、レベルの高いことを教える。これがうちの核だし、これからも続けていきたいところ。

楽しそうですね。僕も何か教えたいです。

 来てくれるなら歓迎するよ、竹下くん必殺技あるでしょ。ぜひやってほしいよ。地盤と環境が整ったら、ぜひやってほしい。20を過ぎたら次の世代を育てることを考えないとね。

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